この資料の目的
この資料は新日本無線様で販売している「NJM2360」を利用して、昇圧回路を作るために試行錯誤した記録です。忘れないように資料として残すためブログ記事としてアップしたいと思います。
この資料を作る際に新日本無線様提供の「NJM2360/60A の応用」というPDFファイルを参考にしました。
http://www.njr.co.jp/products/semicon/PDF/application_notes/NJM2360_A_APP_J.pdf
また、計算が煩雑になるためEXCELファイルも用意いたしました。こちらを利用すれば手計算することなく、求めたい抵抗などの値を算出することができます。こちらもご利用ください。
NJM2360パラメータ計算シート
この資料では回路図などの画像を貼り付けますが、そちらは「NJM2360/60A の応用」から転載および加工したものです。ご了承いただければ幸いです。
想定する読者
- ブレッドボードで簡単な回路を作成したことのある方
- NJM2360を利用しようとして「NJM2360/60A の応用」を斜め読みした方
- NJM2360を利用して大きい電力を必要とする昇圧回路を作りたい方
NJM2360とは
新日本無線様のデータシートから引用すると、
NJM2360 は,DC/DC 変換用スイッチング電源IC です。大容量の出力スイッチを内蔵しており,1.5A のスイッチング動作が可能です。外付け素子は少なく,ステップアップ,ステップダウン,インバータ等のアプリケーションが容易に実現できます。また,外部抵抗を付けることにより出力電流制限も可能です。
ということで、昇圧回路や降圧回路を作ることができる優れものです。
この資料はこちらを利用して、昇圧回路を作って見たいと思います。
昇圧回路の設計
それでは実際にNJM2360を利用して昇圧を作成してみたいと思います。
今回、昇圧回路ということで、前述の「NJM2360/60A の応用」を見てみると、32ページと38ページに昇圧回路の例が書いてあります。今回は、少し大きめの電流を流すため、38ページの大電力編を利用したいと思います。
まず、今回作成する昇圧回路の設計条件を以下に記します。
入力電圧 | 6.55V |
---|---|
出力電圧 | 9.6V |
出力電流 | 2000mA |
出力リップル電圧 | 100mA |
想定効率 | 70% |
周囲温度 | 25℃ |
回路図は以下のようになります(「NJM2360/60A の応用」より転載及び加工)。
上記の回路図でRscなどの値を求めていくことになります。
「NJM2360/60A の応用」の38ページ以降に計算の方法が書いてありますが、計算は面倒ですし、手計算して間違えたらいやなので、Excelシートを用意しました。以下からダウンロードしてください。
NJM2360パラメータ計算シート
こちらをもとにそれぞれ、入れていきます。
設計条件(「NJM2360/60A の応用」38ページ)
Excelを開くと、以下のような画面が開かれると思います。
ここに、先ほど提示した設計条件を入力してみましょう。上図の赤線で囲まれた部分に提示した数値を入力していきます。
改めて提示すると、以下の値を入力します(単位は入力不要です)。
入力電圧 | 6.55V |
---|---|
出力電圧 | 9.6V |
出力電流 | 2000mA |
出力リップル電圧 | 100mA |
基本的に、Excelにはこのように、罫線で囲まれている部分に値を入力していくことになります。
発振周波数の決定(「NJM2360/60A の応用」38ページ)
次に発振周波数とタイミングキャパシタを決定します。
Excelの「発振周波数対タイミングキャパシタ特性例」シートを表示します。
上図を見て判断しますが、これはあくまで入力電圧が5Vの場合の例で、今回は6.55Vであるので上記特性例を利用するのは適切ではありませんが、データシートには入力電圧が5Vの場合しかないので、このまま進めます。
タイミングキャパシタは選択しやすい330pFを選ぶのが普通のようなので上図の330pFのところ(赤線部)をたどっていくと、発振周波数は72kHzであることがわかります。この2つをExcelシートに入力していきます。
タイミングキャパシタ | 330pF |
---|---|
発振周波数 | 72kHz |
特別な用途がない限りタイミングキャパシタは330pFで十分だと思いますので、こちらについてはデフォルトの値を埋め込んでいますので、改めて入力する必要はありません。
スイッチON/OFF時間の決定(「NJM2360/60A の応用」38ページ)
次にスイッチON/OFF時間を決定します。
Excelの「スイッチON OFFタイミングキャパシタ特性例」シートを表示します。
先ほどタイミングキャパシタを330pFに設定したので、以下の赤線部をたどっていきます。
これによって、スイッチON/OFF時間は以下のようになります。
スイッチON時間 | 9.4μs |
---|---|
スイッチOFF時間 | 4.0μs |
外付けトランジスタの仕様(「NJM2360/60A の応用」40ページ)
ここでは選定したトランジスタのデータシートを見ながら入力していきます。
トランジスタの選定条件について、私は以下の基準で選定いたしました。
- 昇圧回路の消費電力に耐えられるか
- コレクタエミッタ間飽和電圧が低いもの(電力損失をなるべく少なくするため)
- 最大で流せるコレクタ電流がピーク電流(この後計算します)より大きい値か
ピーク電流はPDFファイルでは先に求めていますが、ピーク電流はトランジスタの飽和電圧の最大値に依存するので、トランジスタを決めてしまわないと求めることができません。
そこで、一度トランジスタを決めてしまって、ピーク電流でトランジスタが壊れないかチェックするか、トランジスタの前に配置されるインダクタンスの値を大きくすることでピーク電流が小さくなりますので、それで対応します。この相互関係は以下の図のようになります。
ただ、コイルは部品自体も大きいですし、Lが大きいと一般的に部品も大きくなりがちですので、できればLを小さくしてコレクタ電流が大きくても問題ないものを選びたいものです。
今回、「2SC4511」と「2SC3851A」と迷いました。それぞれのデータシートを以下に示します。
[2SC4511]
出典/http://akizukidenshi.com/download/ds/sanken/2sc4511_ds_jp.pdf
[2SC3851A]
出典/https://www.semicon.sanken-ele.co.jp/sk_content/2sc3851_ds_jp.pdf
それぞれの違いを表にまとめたものが以下のようになります。いずれかを入力してみてください。
2SC4511 | 2SC3851A | |
最大消費電力 | 30W | 25W |
電流増幅率の最小値 | 50 | 40 |
コレクタ電流の最大値 | 6A | 4A |
飽和電圧の最大値 | 0.5V | 0.5V |
私はコレクタ電流の最大値が大きい「2SC4511」を選びました。値段も「2SC4511」はOランクで1個70円、「2SC3851A」は50円(双方、秋月電子通商様で確認)で値段もそれほど変わらず、コレクタやベースへ過電流が流れて焼き付かないように「2SC4511」を選びました。選定の際には色々なデータをシートを見て、条件にあうトランジスタを見つけてみてください。
インダクタンスの設計(「NJM2360/60A の応用」39ページ)
トランジスタが決まりましたら、トランジスタに流れるピーク電流を計算し、定格を越えていないかをチェックします。
前述までを入力すると、「利用できるインダクタの最小値」に値が入っているはずです。今回の例では「6.064μF」が設定されていると思います。この計算されたもの以上のものを、その下の欄に書かれた「インダクタンスの決定」欄に値を入れてください。例として、今回の設計条件で、外部トランジスタを「2SC4511」を選んだ場合、インダクタンスの値を変更したときのピーク電流の値を表に示します。
インダクタンスの値 | ピーク電流 | 許容電流値 |
---|---|---|
10μH | 5.687A | 11.374A |
22μH | 2.585A | 5.170A |
47μH | 1.210A | 2.420A |
68μH | 0.836A | 1.673A |
上記のようにインダクタンスの値を変えるとピーク電流の値が変化することが理解できます。トランジスタに流れる許容電流値はピーク電流の2倍必要であるとしています。よって、今回、2SC4511は6Aまでコレクタ電流は許されていますが、上の表を見ると10μHだと許容値を越えているため利用できず、22μHより上だと利用できることがわかります。今回は念のため「47μH」を採用しました。47μHを入力すると以下のようになるはずです。
利用できるインダクタの最小値 | 6.064μs |
---|---|
インダクタンスの決定 | 47μs |
ピーク電流の計算 | 1.210A |
利用インダクタンスの許容電流値 | 2.420A |
利用するインダクタンスの型番 | TCV-470M-9A-8026 |
利用するインダクタンスの型番にはご自身で利用する型番を設定してください。私はトロイダルコイル「TCV-470M-9A-8026」を利用しました。
バイアス抵抗の設計(「NJM2360/60A の応用」41ページ)
コレクタ抵抗の設計(「NJM2360/60A の応用」41~42ページ)
バイアス抵抗とコレクタ抵抗の意味はPDFファイルに記載されておりますので、省略致します。すでに計算値が出ているはずですので、購入しやすい抵抗を選びます。今回は以下のように致しました。
バイアス抵抗計算 | 247.934Ω |
---|---|
バイアス抵抗の決定 | 220Ω |
内蔵パワートランジスタQ1のコレクタ電流 | 23.1mA |
1ピンのコレクタ抵抗計算 | 231.303Ω |
コレクタ抵抗の決定 | 220Ω |
8ピンのコレクタ抵抗計算 | 1110Ω |
コレクタ抵抗の決定 | 1000Ω |
検出抵抗の設計(「NJM2360/60A の応用」42~43ページ)
まず、検出抵抗を求める前にR1,R2に流れる電流を設計します。R1,R2に流れる電流は、入力バイアス電流の100倍以上にするというルールがあるようです。PDFでは300倍にしていますので、そのまま採用して事前に300という数値を入れております。
すでに、理想的な抵抗値が算出されていると思いますので、それに従って購入しやすいR1とR2の抵抗の値を入れてください。ただし、今回はNJM2360の5ピンにはR1とR2で分圧した電圧を印加するため、R1とR2の比が大事になってきます。それぞれ、R2を確定したときの理想的なR1の値が再計算されますので、それに従ってR1を決定するとよいでしょう。
結果としては以下のように致しました。
バイアス電流に対して何倍で設計するか | 300倍 |
---|---|
検出抵抗(ダイオード-5ピン間)の計算 | 69.583kΩ |
検出抵抗の決定 | 67kΩ |
検出抵抗(5ピン-GND間)の計算 | 10.417 kΩ |
決定したR2による適切なR1の抵抗値の計算 | 10.030 kΩ |
検出抵抗の決定 | 10 kΩ |
(決定したR1による適切なR2の抵抗値の計算) | 66.800 kΩ |
過電流検出抵抗の設計(「NJM2360/60A の応用」43ページ)
平滑容量の設計(「NJM2360/60A の応用」43ページ)
フライフォイールダイオードの設計(「NJM2360/60A の応用」43ページ)
いよいよこれで終わりです。それぞれ計算した結果が表示されていますので、確認します。フライフォールダイアードについてのみ型番を入れてください。一般的にショットバリアダイオードを選ぶように、とPDFで記載がありました。私のほうでは秋月電子通商様で購入可能な「SBM1045VSS」を選択しました。
よって、今回は以下のようになります。
許容電流 | 2.420A |
---|---|
過電流検出抵抗の計算 | 0.103Ω |
過電流検出抵抗の決定 | 0.100Ω |
平滑容量の計算 | 188.000μF |
平滑容量の決定 | 940μF |
利用するダイオードの型番 | SBM1045VSS |
設計結果
このようにすると、以下のように設計結果が表示されます。必要であれば参考URLに購入予定のものを記載しておくと後々便利だと思って作成しました。
回路図
このExcelファイルは実際に回路図に設計した数値を載せてくれるようにしていますので印刷してそのまま利用できます。
おわりに
これで作成したExcelを利用して簡単に昇圧回路を作るためのパラメータを求めることができました。あとは上記回路図に従ってはんだ付けするなり、ブレッドボードで作成するなりでうまくいくはずです。
トランジスタの選定やコイルの選定で少し戸惑う事があると思いますが、秋月電子通商様などがデータシートを公開しておりますのでそちらを見ながら適切な部品を見つけてください。将来的には部品も自動で選定するプログラムを作りたいと思っておりますが、そのためには電子部品のデータベースを作らなくてはいけませんね。これは後程という事で。
参考資料
- 新日本無線様 「NJM2360/60A の応用」
- 新日本無線様 NJM2360 データシート